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Quality People, Quality Stories. Vol.1
2017.07.31 Storyteller

クラフトビールのパイオニア ”COEDO”。
株式会社共同商事コエドブルワリー代表取締役社長の朝霧重治氏が語る

「ブランディング、世界展開、日本…」とは。

—簡単にこれまでのCOEDO、クラフトビールの変遷についてご紹介いただきたいのですが。

 この5年位の展開を考えると、当時「クラフトビール」という言葉は今ほど耳にする機会は少なかったはずです。2006年に今のCOEDOにリブランディングした時にも「地ビール」と呼ばれるのがまだ一般的で。でも我々の特性を正確に伝えていくとなると、どこで作っているビールなのか、というよりも手作りを小規模でする為、オートメーション導入という流れは有り得なかった。
 その頃、全日空さんが「Inspiration of Japan」というコンセプトで機内サービスを開始するご計画だったので、ビールについても「日本の職人気質」というキーワードで解釈したらいかがでしょう、という流れで導入頂いたこともあり、この頃から徐々に「クラフト」「手作り」というコンセプトがとても丁寧に浸透していったように思います。また、少し前に遡りますがリーマンショック、東日本大震災があり、拝金主義的な所より、人と人との交流や自分が属するコミュニティ、地球との繋がりを考える思いの中で、本当の幸せって何だろうと考える機会が増えたように思います。
 例えば、Bean to barとかファームトゥテーブルとか。本当の幸せは手作りで顔が見え、想いを大事に持ち、食卓を作っていくという考えにシフトしていく文脈の中、クラフトビールも同じような位置付けで、我々も丁寧にモノづくりから想いを伝えていきたいという流れを経た結果、日本でも急速に定着していったという背景があります。キリンさんがスプリングバレーブルワリーを代官山に作り、プロモーションを進めてビジネス界でも急速に認知が進んだというのも大きな出来事でした。
 海外でも、ある程度社会が成熟するとインダストリアルなものは喜ばれなくり、プレミアムや手作りなものに対する再評価が生まれる。それはビールも同じ事が言えます。一方、海外とは少し流れが異なりますが、日本も私の印象より5年くらいは早く同じような流れにシフトしたと思います。
 2年前からちょっとしたクラフトビールブームと言われていますが、実際にビールを扱われている方にとっては、ブームというより社会の流れの中で位置付けとして今ビールがこう在る、という見方なのではないでしょうか。

—第二次クラフトビールブームになるのでしょうか。

 最初の地ビールブームといってもその頃はクラフトビールという言葉がなく、約20年前にあった地ビールブームはビールをツールとしてみなしていました。本当にビールを作りたいという想いより、その地域経済を再活性化する為の観光業として位置付けられていたんです。新しいお土産・特産品を作りましょう、という動機やバブルで傷んだ地域経済をもう一度復活させる為のツールでした。  時が経って今はビールそのものの魅力に気が付き始め「ビールがやりたい」というムーブメントになっています。ビールをかつてツールとして商売しようとしていた方達がビール自体を目的にするようになった、そんな動きがあります。あとは「観光」ではなく「コミュニティ」の中核にクラフトビールがあるという位置付けをする方もいらっしゃいます。

—なるほど、コミュニティというのは具体的には何でしょうか?

 例えばスターバックスは、家でも職場でもない、第三の場所「3rdプレイス」というもう一つの場所という考え方がそこにはあると思います。高齢の方が午前中からスタバに来てコミュニティ化しているとか。
 それと「ローカル」という意味もあるのでは。アメリカに行ってもホールフーズに行くとローカルという棚があり、ビールが沢山並んでいます。もう一度、自分達が属するエリア=コミュニティといった事を大事にしていきたい、という概念が出てきているなという印象があります。
 コミュニティの中核にカフェがあるように、クラフトビールのブルワリー兼タップルームがあるというそんな理想を感じるケースもあります。自分で作って自分でお出ししてというような、その場製造で飲んで貰うという、それがまたクラフトビールの売りにもなってますよね。
 そういうケースでアメリカではメーカーからブルーパブのような所まで、もの凄い数のクラフトビール会社が増えています。
 COEDOとしては、私の活動の一つとして「グローカル」という「グローバル+ローカル」の造語を冠した活動があります。例えばマクドナルドがその価値を広めた結果、今まで普通にサンドイッチを食べていたイタリア人がハンバーガーを食べ始める、みたいに価値観がバーンと変わる感じではなく、より点と点で相互理解が深まるという意味合いを「グローカル」という言葉に込めています。そのためにも毎月海外へ行き、COEDOを世界に輸出するという活動を増やしています。

—確かにWEBサイトの対応言語も随分増えていますね。

 現在の輸出国は14ヵ国です。海外で日本食レストランも増え、日本食の評価がとても高くなっています。日本食レストランであれば日本の美味しいビールを、というのが喜んで頂けるポイントです。
 また、ワールドビアカップなどで受賞も沢山出来、ブラックラガーの漆黒/Shikkokuは受賞歴も多いため世界でもトップクラスの黒ビールという評価を頂いています。
 となると、日本のビールと言わなくても「ブラックラガーのCOEDO」というように、国旗を外した見方も出来てきたため、一部のビールマニアの方だけでなく沢山の方に楽しんで頂けるようになりました。こういう流れもあり、世界での活動も徐々に増えてきました。
 実は今、ビールのルネサンス期なんです。中世のヨーロッパで誕生したビールは、英国、アイルランド、ベルギー、ドイツと、食文化の中に確立され、本来伝統的な地域食なのです。
 また、ベルギーならベルギーのビール、ドイツならドイツのビールしか飲まない地域食だったのが、アメリカを中心に変わりはじめ、今まで飲んだ事のないビールに出会い、衝撃を受け、その面白さに気付いた人達が、かつては起業の対象ではなかったブルワリーをやろうという流れになってきた。ロンドン、スコットランド、ドイツでもクラフトビールという言葉が使われるようになり、世界でも変わりつつあります。
 最近ではルネサンス期の創造的なモノづくりを、という極めて実験的な要素もあり麦芽をローストしてコーヒーやチョコレートの香りをつけるというやり方や、本当にコーヒーやチョコレートを使ってビールを作る、なんて流れもあります(笑)フリースタイルで面白く、あちこちでそんな雰囲気も広がっています。やはりビールは定番だけでは伝わり切れない面白さをお伝えしたい、ようやくそういう時代が来たなと思い、COEDOクラフトビール1000ラボを2年前に開設しました。又、これからもっとビールを作り続けていくなら理想的なロケーションにこだわりたいと醸造所を探していた中、ここに出会いました。ごく最近のトピックスですね。

—これまでの定番5アイテムとは別に、お花見用のビールが出てきたり季節物を作ってらっしゃいますね。これらがCOEDOクラフトビール1000ラボ発の商品なのでしょうか?

 ラボから出るものもあればシーズナルという位置付けだったり、定番の延長線上に間違いなく楽しんで頂けるようなものもあります。
 ラボでは今までの方法論には傾倒せず、実験的にやってみてはどうかという事や一度も使われた事のない原料を使うなど、従来実験室で10Lでやっていた事を1000Lのスケールのラボブルワリーで行い、実験自体に皆様に参加して頂く等、これが1000ラボのコンセプトでもあります。
 1000Lのスケールで1000種類のビールを作るというのがラボのネーミングですが、この地域の農家の方達と連携し麦を育てる、そしてその麦を麦芽にする。その農業の延長線上として、『ビール農本主義』というプロジェクトで活動しています。
日本の全ブルワリーの原材料のほとんどは輸入品なんです。まだまだサプライチェーンやビール産業構造には課題があります。COEDOも農業がバックグランドの会社のため、我々もこういう時代になって、ようやく自前で麦芽を作ってビール作りにトライする事ができるようになりました。例えば花椒(ホアジャオ)という四川山椒をスパイスとして使い、「中華に合うビール」という予備実験をラボでやってみたりしています。

—COEDOを支持してくれるファンの方はどんな方達なのでしょうか?

 一番想定しているお客様像が文化的な楽しみをお持ちの方々です。旅をするのが好き、文学が好き、音楽が好き、映画が好き。そういう方達っておおよそ食に全く関心が無いという事が少なく、同時に食べる事も大事にしている。もちろん飲む事も。ワインをしっかり選んで楽しむとか、お料理もちゃんと食べたりはしているのに、実はビールにそういう機会がなかったと思うんです。なのでその方々にビールもお仲間に入れて頂きたいなと、ずっと提案をしてきました。

—名刺の素敵な肩書が気になっていましたが、「ビール伝道士」とはキャッチーですね。

 そうですね、COEDOを伝えるのは勿論なんですが、何故ビールが美味しいのか、それを知って頂く事が第一だと思います。ビールを理解してからCOEDOを理解して頂く事が大事だと思います。
 あとはやはり、本来日本語で日本人に対して丁寧にお伝えするという事が自然なはずなんですよね。西洋礼讃という部分もまだまだあると思いますが、ブルワーという職業の名称にしても、我々はビール職人と日本語で呼びます。仕事も職人的で、メッセージとしては理解して頂きやすいと思います。

—瑠璃/ruriや紅赤/beniaka等、ネーミングのプロセスを教えてください。

 コンセプトに沿ってですね。デザイナーの西澤さんとの共同作業で、「ビールには沢山の色合いがあるよね」という事に感動し、そこから色を商品名にすることにしました。日本のメーカーだから日本の伝統色を、という事ですね。

—当時からブランディングをしなければならないという意識をお持ちだったのでしょうか。

 我々は伝えたい事をいつも明確にしています。コンセプチュアルというか、言葉を凄く大事にしていて、言葉を作っているのだけれど、ビジュアルとしても全てのものへの接点をデザインし、そのコンセプトが少しでも伝わるようにしなければ、と思い進めてきました。これが多分ブランディングという事なのかもしれません。コミュニケーションや、目で見える情報、耳で聴こえる情報、その全てをデザインするという事ですかね。

—ブランディングをして初めて上手くいった事を実感したのはどんな時でしょう?

 やはり自分達がこうありたい、という事に対して賛同してくれる、理解をしてくれる、または自分達が用意した商品やイベントに対して賛同の実感が得られた時に、「あ、理解して頂けたんだな」と思えたりします。「いいね!」と言って頂けた時が相互理解なのかなと。日々ある事だと思います。

—ビジュアル的なアウトプットについてはいかがでしょうか?

 ロゴを含め、ブランドコンセプトを全て整理し、説明出来るようになった事ですね。ビジュアルとしても基本的な要素をしっかり説明出来るように、ロゴマークや商品の構成、WEBサイトや黒い名刺など、色々な説明ツールとして整った時等、これで説明出来る!という事を感じられました。デザインは資産としても足していくから終わらないですね。せっかく商品やパッケージを作っても名刺だけ手作りで適当に印刷されていると、丁寧に説明をしようとする中で邪魔になってしまいますよね。

—ブランドを変える際、組織に落とし込む過程で苦労されたエピソードはありますか?

 そこはしっかり座学的な事で最初からプレゼンテーションをしっかりやっています。
「地ビールを辞めます」という所からのスタートです。自分達が職業を聞かれた時、「地ビールを作っています」から「クラフトビールを作っていると言いましょう」に(笑)。
 また、外部のビジネススクールで話す内容等も定期的に伝えるようにしています。どこまで理解してくれるのかなというのはあるんですが、やっぱり繰り返し伝えていく必要はあると思います。インナーブランディングですね。
 こういう事を考えてこういう方向で行くんだ、と繰り返し伝えていく事でしかない。「もう聞きましたよ」なんて言われたら、しめたもんですよ。もう聞いたという事は、分かってくれたんだなという事ですからね。

—もしCOEDOがブランディングをしていなかったらどうなっていたと思われますか?

 残された選択肢は意思決定だけでした。ファミリービジネスですから、撤退するか、抜本的にやり直すかの二択で、中途半端はあり得なかった。  ビールは素晴らしいコンテンツとして力があるので、当時地ビールが伝えてこれなかったその良さをしっかりと伝えることができれば、絶対に面白いなと思っていましたし、こう感じてくれる人も絶対沢山いるだろうなとも思っていました。撤退するということはあまりにも勿体なかったですし。

—朝霧社長は地ビールと全く畑の違う業界からCOEDOに入社されましたが、マインドとしてビールはだんだん好きになっていったという事でしょうか?

 そうですね、もともとバックパッカーとして二十歳の頃から世界をブラブラした事があって。今もあまり変わりませんけども(笑)。
 ロンドンに行った時とか、「ビール」といえど、「ペールエール」や「スタウト」があるこの文化が良いなって思って。日本のように4種類だけでなく、種類が色々あったので、コミュニケーションを取って教えて貰って。それに、パブで飲んでいると、誰も一気飲みなんてしないわけです。日本のように居酒屋で本格的に飲み食いをしているというのではなく、喋りながらビールをちびちび飲み、1~2時間位してパッと帰っていく、みたいな。それが良いなと思って。

 ドイツに行くとビジネスマンが朝からビールを飲んだりしていて凄いなって。でもこれが普通なんですよね。こうやってゆっくりビールを飲むというのは味わいも色々あって楽しいし、ドイツにも小さな村々にビールメーカーが色々あるように、日本でも鹿児島に行くと、その地域の焼酎をこんな風に飲んでいるんだなって気付かされまして。こんな雰囲気が良いなって思いました。
 いざ自分が直面する家業にとなった時、当時地ビールはツールだった訳です。「観光物産的」「地域原料を使用」などのアプローチが過度になっていて、工場の稼働を上げる為に安い発泡酒を作り、原価割れしているけど稼働を上げないと更に赤字が出るからという事をやっていたりして瀕死状態でした。
 でも一方で、「ビールってそんなつまらないもなのか?」という疑問と、「いや、全然つまらなくない」っていう気持ちがあって。ゆっくり色々なビールを味わう事が楽しいという、二十歳のバックパッカー時代に感じた気持ちを原体験で持っていたのが大きかったから、自信が持てたんですよね。
 もし日本の環境だけにいたら、ギャップや違いに気が付きにくく、リアルな違いに気付きにくかったと思うんです。やはり日本の環境は皆日本人だから、前提条件も一緒だし、常識も一緒だし。「ダイバーシティ」と言うと月並みですけど、とても良い事ですよね。
 二十歳頃のビールの実体験がなければ、市場の観察や日本国内の事情の観察だけで、アメリカのクラフトビールの芽生えも全く調べずに辞めていたかもしれませんね。

—これからブランディングしていこうと考えられている方々に、実体験を通してお伝え出来る事はありますか?

 まずは、自分たちが何者であって、その中でどういう位置付けなのかというポジショニング、何をやっていくかというミッションがはっきり定まっていないと、ブランディングにはなりません。そしてずっとそれを「伝えていく」という事が大切です。  例えばパーソナルブランディング。「私はこういう人間なんです」というのを理解して頂けるように、メガネから服装から話し方から、その為の日々の活動がブランディングになります。トータルでの行動や情報が印象付けになるので、自分がどうありたいか、何をやりたいか明確に定まっていないと、「この前言っていた事と違わない?」「服装全然違うよね」などと中々『像』が出来ない。  ブランディングの成功確率が高いというのは差異化されている事です。「違う」という事こそが大事。誠実な性格や、凄い面白いなどが印象付けとしてある、それはサービスや企業についても同じですよね。

—最近だとワークウェアブランドさんと新しいユニフォームを作られていますが、今後も様々な面からブランディングの継続をお考えでしょうか?

 そうですね、結果的にブランディングに繋がりますね。その他で云うと、先日菅原工芸硝子様とビールを注ぐグラスを考案しました。一緒に5種類のビールに合わせてどんなグラスが合うかなという事で、ここ5年ほど一緒に取り組んでいます。元々は伽羅/Kyaraがワールドビアカップでシルバーを受賞した時に、合うグラスってどんなのかなと。一緒に何か出来ませんかと菅原さんから興味をお持ち頂いたのがきっかけです。お互い基本クラフトで、考え方や理想は一緒、お互いを高め合うには面白い機会なんです。ビジネスでいうとアライアンス、もっと身近な用語で言うとコラボレーションでしょうか。グラスには中身が必要だし、ビールにはグラスが必要なので僕らが別にグラスメーカーになろうなんていう事は出来ないし、するつもりも無いから、そこは共同関係でやるほうが良いですね。餅は餅屋の専門性ですね。
 ワークウェアについては、Senelier(セネリエ)というブランドの代表・左今さんと共同開発しました。フランスでワークウェアを学んでらっしゃったので本当に実用性が高く、ファッション性もある。ユニフォームは働く人の誇りにも繋がるという考え上、本当にヒアリングしたり、着心地とかを確認して作ったものを市販していくという独自のプロセスを持っている人です。今まで聞いたことないし凄く面白いですよね。
 普段使う道具とか含めて検証を重ねて、その上ファッション性が持てたら良いじゃないですか。働くっていう大きな時間を費やす事が快適で格好良ければ尚良い訳ですから。それで共同開発でやりましょうってなりました。
 基本的に我々はどこかのメーカーさんやサプライヤーさんの名前を下請け的に入って頂くことはせず、必ずダブルネームでやります。先方にとってもCOEDOを出してくれて何かメリットがあればどんどん出してもらって構わない。”誰々と一緒にやります”というような感じで、例えば菅原さんと一緒にやってますというような。菅原さんも言うし我々も言うというような。クラフトマンシップ溢れるものが好きなもの同士のお客様っていうのは、ある一定の共通性はあるという事ですね。顧客シェアにも繋がると思います。ビジネス的に何の問題も無いと思います。

—既に世界で評価される日本ブランドとして、今後、世界展開を目指す日本ブランドや企業様に必要な事は何だと思われていますか?

 日本は他の国と比べるとやはり違うと思います。食の業界は特に大きい違いがあります。違うというのはブランド化しやすいんです。同じだと、ただアジアっぽいというだけで終わってしまう。韓国、日本、中国という識別性がなければ、やっぱりブランディングはぼんやりとしてしまい、個々が認識される事は難しいですよね。だから日本は世界でも面白い立ち位置にいるんだと思います。閉鎖的で特殊で、同化してないからイノベーションも生まれない、だけどコンテンツで見るとユニークだという事ですね。まさに日本はガラパゴスですから(笑)。
 例えばUberでしょうか。日本で暮らしていて、終電で帰ってきて、冬でもタクシーは無い長い列が出来たり、いつになったら帰れるのかなと思いながら、何故1時間もタクシーを待ったりしてるんだろうなって。欧米や、先日行ったスペインもそうですけど、朝4時の飛行機に乗る為に空港へ行くのが流石に早すぎて、公共の交通機関が無いからタクシーかなと思って呼んだのですが大変で。ホテルのフロントに頼んでも30分経っても来ず、乗り遅れたらどうしようなんて思いながら。だけどUberだったらその辺を走っているのが見えるし、ピッて呼べば2,3分で来るんですよね。そういうシステム的な事が、日本というのは残念ながら不便になっちゃっていますね。東京の交通機関とかは素晴らしいのですけど。やはり日本は違うんですよね。いい意味でも違う。違うから、関心があるから、皆、観光とかでも来てくれる訳です。
 他と同じような感じなら、行かなくてもいいかなみたいになりますよね。ですから、違いがあるっていう事を皆がしっかり認識し、再度皆でブランディングしていくということが大切だと思います。例えば言語の特殊性もそうで、「わびさび」なんて他の国では見かけないタイプの芸術ですね。身近なもので言うと漫画等でしょうか。皆で裸で風呂に入る温泉とか、余り見た事無いし、よくよく考えると面白いですよね。そこには羞恥心は無いという不思議な感じとか、我々にとって当たり前の事が世界から見るととても特殊で。
 また、食の業界で言うとラーメン等でしょうか。今や日本のものになっている位人気ですが、元々は中国の麺文化です。そこに日本の国民性が溢れていると思っていて、凄く広く受け入れ、咀嚼し、より良いものに昇華していく。誰かが生み出した発明やイノベーションしたものをブラッシュアップするということが得意な国民性ですよね。
 そういう部分では、ビールもそうじゃないかと思います。もともと日本人が作ったものでもなんでもない。我々が教えて貰ったものを、我々が良いと思った方向にブラッシュアップしていく。その中で独自性というのが生まれていっているんだと思います。

—コンクールを初めて受賞された時のお話ですが、結構確信的に攻められたという記憶があります。

 モンドセレクションのお話で言うと、絶対評価なんですね、相対評価ではない。ある一定のスコアがつけば最高金賞が貰えるんです。コンテストじゃなく、品評会ですね。  この前ドイツで5月に受賞した賞は、皆が良くても順位が付く為、一位じゃないとプラチナは貰えないんです。日本の職人道というか、やっぱり日本人は真面目で生活習慣としても衛生的な環境が整いやすい為、そういうところから恐らく取れるだろうと予測しながら出しました。初期は最高金賞をダブル受賞し、それを品質の証と言う事で広報として展開していきました。あとはプロモーション的にも、当初受賞したコンクール実績はどんどん出していきました。

—今期はArt&Scienceというテーマを掲げられています――――。

 ”Art&Science”っていうのは、ビール醸造をする上で実は大切なキーワードなのです。ビールというのは「化学」なんですね。
 例えば農業は自然科学、化学、有機化学、それから発酵、バイオテクノロジー、そして最後充填していくときには機械工学。とにかく”Science”なんです。でも、技術者だけの知識で本当に美味しいビールを生み出せるのかというと、最後の”味”というのは”Science”じゃなく”Art”なんです。だから”Art&Science”というテーマを掲げています。ですから醸造に携わっている人は、その”Science”という事に関して毛嫌いする方は基本的には難しいですよというメッセージなんです。
例えば、化学式CがあってHがあって、これを見て、「あー嫌だ嫌だ」ってなる方は、ビール造りはご遠慮頂くという感じです。採用コンセプトでもあるのですが、改めてそういう事をしっかり意識してものづくりをやっていこうという事です。

—E-commerceについてはどうお考えですか――――。

 基本的には直販自体をあまり重視していないです。
 リアルなチャネルが機能しないのであれば、ECをやらないといけないとは思っていますが、今は基本的には売って頂いている方たちとの連携なので。我々が手売りすると、カニバリゼーションになりますから。だから基本的にはあまり手を加えていません。そこで、もう少し何か現代的なやり方があるのでしたらそうはしたいな、とは思いますけど。
 スマホの方は、今年WEBサイトは大きく変えたいと考えています。ブルワリ―がこの場所に移ったので、写真等も撮り直さなきゃいけない。公式ブランドサイトの方ですね。それに合わせて全体の見直しも出来ればと。

—日本を代表するクラフトビールのパイオニアとして、各ジャンルのブランドさんに応援メッセージがあればお願いします。

 デザインは凄く大事だと思います。特に海外へという時には日本語という言語に頼る事が出来ませんから、そこにどうデザインをして伝わっていくか、言語として説明するという事だけではなく、我々もそこは大事にしていきたいと思っています。デザインは資産ですね。

—COEDOビールファンの方にインフォメーションをお願いします。

 丁度この夏から僕らも改めてトラウマであり封印していた地ビールを再度解禁します。
 地ビール化していくというか、「地ビールなんでしょ?」と言われたら、「地ビールですよ」と否定しない。
 川越で氷川神社さんという神社があり、この夏は一緒に「恋明かり」という行事を行います。縁結び風鈴という888個の風鈴が、涼やかに綺麗に吊るされた境内が見ものなんですが、来られた方がお帰りになる際に神社から明かりのつくぼんぼりを頂けて、それを持って街に明かりを灯しながら帰る。
 そんな「恋明かり」という行事に合わせた2種類のビールを7月22日から数量限定ですがリリース致します。川越でないと飲めない、「朝虹/Asaniji」と「月下/Gekka」というビールです。
 「朝虹/Asaniji」はレモンと蜂蜜が副原料で使われていて、やや酸味があり甘酸っぱい感じです。「月下/Gekka」は小麦ベースのビールですが、黒麦芽を使っている為ややほろ苦い感じです。八月末まで一ヶ月くらいやっています。是非川越に遊びに来て頂ければと思います。

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