創業から160年受け継がれる職人魂。西の老舗・和菓子店 浪芳庵
得意先企業様からご紹介に預かりご縁を頂戴した、大阪 奥なんばの老舗和菓子店、浪芳庵株式会社。六代目代表取締役社長 井上文孝氏、女将 井上稔子氏にインタビューを敢行。 集客のため新商品の開発に尽力、魂を込めたサービス研鑽について、そして9年前の本店移転、今夏に控えた現在進行中の本店リニューアルオープンという、2つのターニングポイントについての貴重な話を伺うことができた。
ーまず、浪芳庵についてお聞かせ頂けますか。
江戸時代、現在の道頓堀の外れにあった「浪芳橋」のたもとで団子屋として開業したんです。二代目が引き継いだ明治時代は、看板商品の焼き餅が「浪芳餅」と呼ばれて、多くの人に愛されるようになりました。大正に入り三代目の時代になると、界隈の小学校に紅白饅頭を納め、戦後はあんころ餅が手土産として注目されたようです。それから1970年代には、赤飯や生菓子がヒットして、現在は六代目店主が考案した「炙りみたらし」が新名物になっています。下型の餅を田楽串に刺して炙り、出汁が香るたっぷりのタレで食べるユニークな看板商品です。
時代と共に移り変わりますが、自然素材を使ったお菓子づくりに徹する姿勢は、ずっと変えずにやってきました。変わらぬ味をただ引き継ぐのではなく、進化させながら160年に渡り暖簾を守っています。
ーその進化の過程に9年前の移転もあったのでしょうか?
隠れ家的なワクワク感を演出するためです。想像できてしまうと面白くないなと。「スカートめくり」の心理に似てますかね?(笑)見えないものにワクワクするような。
しかしながら当然、当初は集客に苦戦しましたね。新聞折込広告を打ったり、集客イベントを開催したり…でも全然人が来なかったです。当初から3年は厳しいと思っていました。
ーなぜ今は繁盛店になったのですか?
“魂”がこもっているから、ですかね。
移転に伴い、元パティシエの女将も商品開発に加わり、新商品を続々と開発しました。現在の看板商品「炙りみたらし」もこの時に完成しました。
職人は腕があるが、「洋物と和のものを合わすのは邪道」という固定概念もあって、その概念をバランスよく融合させるプロデューサーが必要でした。その役目を担ったのが元パティシエの女将です。彼女のセンスが加わり、新商品を続々開発・展開に至りました。「どら焼き嫌いの女将が食べたい、と思えるようなどら焼き」を合言葉に開発し、こだわりのヨード卵を使ったしっとりふわっとした絶品生クリームどら焼きが完成など、その他にもあげたらキリがありません。
元々あったチョコレート味のおまんじゅうも、親しみやすい丸っこいキャラクターを作り、商品名も「ちよこさん」という親しみやすいものに変更するなど、とにかく全ての商品にテコ入れを行いました。
そういったこだわりのある、“魂”を込めた仕事をしていたから、口コミでお客さんもつくようになったんだと思います。
ー店舗は移転してまだ9年、改装しなくても良いのではと思いましたが、なぜ今回改装を?
今回の本店改装は9年前にできなかったことを実現させるための改装です。ただ建物が新しくなるだけではありません。
本店リニューアルに合わせて、今までガス火で炙っていた「炙りみたらし」を紀州備長炭で炙るように変更します。「炙り」って聞いたら炭をイメージするでしょう?9年前はそこまで準備できず、ガス火で炙ることになりました。今、お客さんに伺うと「炭で炙ってるんだと思ってた。」との声を多数いただきます。それはやはり裏切れないなと。紀州備長炭で餅を焼く和菓子屋は他にないと思います。他店が真似できないことをやっていきたいと思っています。
それと、こだわりのカフェも併設します。「ほんの小さなカフェだった。カフェというが小さい椅子とテーブルがあるだけだった」という今の店舗の口コミを見ると申し訳なくなります。言い訳にしかなりませんが、今の店舗ではそれ以外にやりようがなかったんです。
今回のカフェは調理什器はもちろん、インテリアにもこだわり、今までの和菓子の概念に捉われない新しい試みをしていくカフェです。コーヒーはもちろん、将来的にお酒と和菓子を楽しめる、ということも考えています。カフェも含めた今回の本店改装を起爆剤に、「奥なんば」を盛り上げたいと思っています。
また今回の改装は、自分たちの体力があるうちにしっかりと形を作って次の代に継承する、その土台づくりも意識しています。
大手百貨店から東京への出店のお声がけもあるそうですが、「美味しい出来立てを提供する」というポリシーのもと、満足いく生産設備がなければお客様を喜ばせる商品提供ができない、という理由から出店はお断りされているとのこと。まず大阪で地に足をつけて、しっかりと商いを行うことを優先されています。
こだわりを持った商品・お店だから口コミで人が集まる。
魂が込められた浪芳庵様のこれからのサービス展開から目が離せません。